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大阪高等裁判所 昭和41年(う)556号 判決 1966年7月15日

主文

原判決を破棄する。

被告人を、昭和四〇年一〇月二六日付起訴状記載の第一、第三、同年一二月二四日付起訴状記載の第一、昭和四一年一月一八日付起訴状記載の第一の各罪につき、各拘留七日に、昭和四〇年一〇月二六日付起訴状記載の第二、第四、同年一二月二四日付起訴状記載の第二、昭和四一年一月一八日付起訴状記載の第二の各罪につき、各科料九〇〇円に処する。

右科料を完納することができないときは、四五〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

本件控訴の趣意は、被告人小森勉本人、弁護人安村幸並びに京都区検察庁検察官検事服部光行各作成の控訴趣意書に記載してあるとおりであるから、いずれもこれを引用する。

被告人本人及び弁護人の各控訴趣意中法令適用の誤の主張について。

しかし、原判決の挙示する証拠により認められるように、国鉄京都駅長が、その有する管理権に基づき、乗車券の販売、車内の座席売り、物品販売、配布、演説、勧誘、客引き及び寄付を請うなどの目的で同駅構内に無断で立ち入ることを禁止し、右立入禁止の趣旨を表示している場合、右の目的で同駅構内に立ち入る行為が軽犯罪法一条三二号違反の罪と鉄道営業法三七条違反の罪とに当り、かつ両者が刑法五四条一項前段の観念的競合の関係に立つことは、当裁判所の判例(大阪高等裁判所昭和四〇年(う)第二六四号昭和四〇年八月一〇日判決)とするところであり、原判決が右の行為について鉄道営業法三七条の適用を遺脱しているけれども、結局重い軽犯罪法一条三二号を適用処断しているのであるから、この限りでは判決に影響がない。これと異なる見解に立つ所論は採用できないのであって、論旨は理由がない。

検察官の控訴趣意中法令適用の誤の主張について。

所論に基づき調査するに、原判決が、罪となるべき事実として、被告人に対する昭和四〇年一〇月二六日付、同年一二月二四日付、昭和四一年一月一八日付各起訴状記載の公訴事実と同一の事実を認定し、被告人の行為中、駅構内立入の点はいずれも軽犯罪法一条三二号に、就労勧誘の点はいずれも鉄道営業法三五条に該当すると判示し、右軽犯罪法違反の各罪と鉄道営業法違反の各罪とはそれぞれ手段結果の関係にあるとして刑法五四条一項後段、一〇条により、いずれも重い前者の刑に従い、拘留刑を選択処断したことは、所論のとおりである。ところで、日本刑法において牽連犯なるものを創設し、数個の行為がそれぞれ独立別個の犯罪構成要件を充足し、元来数個の犯罪が成立する場合であると解されるのに、これを特に科刑上の一罪として、単に最も重い刑をもって処断すべきものとし、一般の併合罪と違った取扱をしているのは、数個の犯罪の間で、その罪責上、通例手段結果の関係があるというように密接な関連があり、これを一罪として最も重い罪につき定めた刑をもって処断すれば、それによって同時に軽い罪に対する処罰をも満たし得るばあいには、これを数罪として処罰するのは妥当でないと認めたが故にほかならない。したがって、数罪が牽連犯となるためには、犯人が主観的にその一方を他方の手段又は結果の関係において実行したというだけでは足りないで、その数罪間に犯罪の性質上通例手段結果の関係が存することを要し(最高裁昭和二四年七月一二日判決参照)、したがって、右数罪間には単一罪と同一視し得る程度の密接関係が存在する例外特殊のばあいでなければならない。これを本件について見るのに、軽犯罪法一条三二号前段は、特にはいることを禁止された場所に立ち入る行為を処罰の対象としてその場所を占有、管理する者が他人の立入を禁止する意思を表示していることを要件としているのに対し、鉄道営業法三五条は、右のように特に立入禁止の意思が表示されているかどうかにかかわりなく、鉄道係員の許諾を受けないで車内、停車場その他鉄道地内において旅客又は公衆に対し寄附を請い、物品の購買を求め、物品を配付しその他演説勧誘する等の諸行為を処罰の対象としているのであって、右両者の罪の間にその罪質上通例手段結果の関係があるとはいえないのみならず、軽犯罪法一条三二号は、刑法一三〇条の補充規定として住居侵入罪に該当しない特定の場所に対する人の支配の平穏を維持しようとするものであるのに対し、鉄道営業法三五条は、鉄道営業の安全と円滑な運営を確保し、鉄道地内の秩序を維持しようとする行政目的に発した規定であると解せられ、両者は取締の目的と保護法益を異にする異質の犯罪というべきであるから、両者の間にはこれを単一罪と同一視し得る程度の密接関係が存在するものとは認めがたく、これを牽連犯とみることは、牽連犯を設けた前記の趣旨と容れないものである。それ故に、被告人の行為につき牽連犯の成立を認めた原判決は、刑法五四条一項後段の解釈適用を誤り、その誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由がある。

よって、被告人本人、弁護人及び検察官の量刑不当の各論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により更に判決する。

原判決の認定した事実に法律を適用すると、被告人の原判示所為中駅構内立入行為はいずれも軽犯罪法一条三二号前段、鉄道営業法三七条に、勧誘行為はいずれも鉄道営業法三五条(以上いずれも罰金等臨時措置法二条二項をも適用)に当るが、前者の各立入行為は一個の行為で数個の罪名に触れるから、刑法五四条一項前段、一〇条により重い各軽犯罪法違反の罪の刑に従い、いずれも所定刑中拘留刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法五三条を適用し、科料不完納の場合の労役場留置につき同法一八条、訴訟費用負担の免除につき刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山崎薫 裁判官 浅野芳朗 大政正一)

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